第二種電気工事士を取得した

第二種電気工事士の令和3年度の上期試験に合格した。

第二種電気工事士(以下、電工二種)の資格を取得すると、600V以下で受電する一般用電気工作物を扱えるようになる。 要するに、合法的に自室のコンセントを増設・変更できるようになる。 (ただし、高圧受電のマンションでは第一種電気工事士の資格が必要になる場合があるらしいが……。)

以前に電工二種取得者がサークルの部室に コンセントを増設したり、天井にプロジェクター用のコンセントが設置したりしている様子 *1 を見て、自身も取りたいと思っていた資格だった。

申込

電工二種を取得するための試験は、筆記試験と技能試験に分かれている。 筆記試験はよくあるマークシート形式の4択問題だが、 技能試験では実際の機材を使用して行われる。 この技能試験の影響か、受験料は9,300円もする。

この高い受験料のために、思い切って申し込んでしまった後は、 再度受験料を支払いたくないという動機で試験対策が進んでいった。 *2

申込はWebから行える。 令和3年度 *3 から顔写真を電子で送るようになったので、 受験票に貼るための証明写真を撮る必要がなくなった。

この点では、全角数字を入力したら弾かれたり、受験票に写真を貼り付けたりしなければならない情報技術者試験よりもIT化が進んでいるように感じる。

筆記試験

筆記試験は全50問の四択問題である。 合格基準は明記されていないが6割(30問)の正答で合格できると言われている。

電工二種は何度も行われている試験 *4 なので、 過去問からの再出題や同系統の問題が多い。 そのため、参考書を一通り読んだ後は、過去問を解いていく方が効率が良かった。

参考書として「ユーキャンの第二種電気工事士 <筆記試験> 合格テキスト&問題集」を購入した。 過去問は 電気技術士試験センター が公表しているものもあるが、 一問一答形式になった サイト の方が使いやすかった。

問題の種類としては、電気回路のような計算問題や、 法律・記号・機材に関する暗記問題、 配線を考える複線図問題がある。

計算問題は、 電線の種類毎の許容電流 *5 のように暗記しなければならない要素はあるが、 基本的には抵抗・リアクタンスといった高校物理の交流電流の記憶があれば問題ない程度の内容だった。 ただし、参考書では原理や導出は一切載っていなかったので、三相交流の電圧・電流が何故そうなるのか?といった疑問を解消するのには苦労した。

理論部分は既存知識+αで対処できる一方で、 暗記する要素は法令や施工条件、工具の名前と使用箇所、配電図の記号など結構多かった。 そのため、完答を目指すのは至難の技だと感じた。 だが、合格基準の6割を超える程度で良いと割り切れば、 過去に出題済みの内容や配線図の記号を集中的に覚えれば良いと分かった。

配線を考える複線図問題は、 ”単線図”で書かれた設計を”複線図”の実装に落とし込むという問題であり、 まさしく電気工事という内容で楽しかった。 複線図は参考書の最後に書かれていたので解くのも最後になってしまったが、 それまでに法令などの暗記で低迷していたモチベーションがこれによって一気に回復した。 もし筆記試験対策の最初に手を出していたら、最初から最後まで楽しく進められたかもしれない。 また、複線図は次の技能試験に関わってくるので、避けては通れない問題でもある。

筆記試験本番

筆記試験は、50問の4択問題を2時間の試験時間で解く。 計算問題や複線図の問題には時間が必要だが、 工具の写真を選ぶだけの問題もあるので、2時間は長すぎるように感じた。 凡ミスをしていないか4~5周見直しても、残り時間が30分以上余っていたので途中退出した。

正式な解答は翌日に公表されるが、 非公式の解答速報は試験直後からWebで散見される。 それを元に自己採点をした結果、50問中42~43問が正解だった。 10日程度の勉強時間で不安だったが、余裕を持って筆記試験を突破できた。

技能試験

次の技能試験では、出題された配電図通りのものを制限時間内に欠陥なく作成できれば合格となる。

筆記試験と大きく異なる点は、出題される配電図が候補問題として事前に公開されていることだ。 この候補問題は全13問なので、事前に十分に対策できてさえいれば合格できるようになっている。

f:id:astatine85:20210929193359p:plain
候補問題 No.11

その対策もYouTubeに解説動画が存在するので、独学には心強い。

【令和3年度対応】第2種電気工事士技能試験 公表問題作業解説 - YouTube

独学以外にも各所が開催している技能講習を受けるという手もある。 筆記試験の帰り道で技能講習のチラシが配られているし、 検索すればいくつか出てくる。 ただし、2~3万円かかる上に講習会場に行く手間を考えると、独学の方にを選択した。

工具

技能試験で使用する工具は各々で用意する必要がある。

最低限必要な工具は 第二種電気工事士試験受験案内 に指定工具として指定されている。

  • ペンチ
  • ドライバー(マイナス・プラス)
  • ナイフ
  • スケール
  • ウォーターポンププライヤ
  • リングスリーブ用圧着工具(JIS C 9711:1982・1990・1997適合品)

だが一番重要な工具はこのリストにはない。 それは、VVFストリッパー (HOZAN P-958)だ。

これは技能試験で最も出てくるVVFケーブル *6 の被覆を剥くだけでなく、 電線の採寸・切断とラジオペンチを兼ねたマルチツールだ。 そのため、これさえあれば電線に関わる操作を工具を持ち替えずに進めることができる。 実際に使用した所感でも、 このVVFストリッパーを使いこなせていることが、 技能試験の制限時間内に完成させるために重要だと感じた。

このVVFストリッパーと必須工具が揃ったセット(HOZAN DK-28)があり、 これを購入することにした。

筆記試験後に工具の需要が急増する *7 らしいので、 一ヶ月後に来る正式な筆記試験の合格通知を待たずに工具セットを注文した。

練習

試験問題が既にわかっているので、 工具を揃えた後はイメージトレーニングで大丈夫なはず。

……と信じて試験に突撃することもできるが、 再度受験料を支払いたくないので、安定のため練習材料のセットを購入した。 このセットには電線とスイッチやコンセントといった機材が入っており、 全ての候補問題を一通り作ることができる。

スイッチやコンセントは取り外しができるので、 電線などの消耗品を買い足せば、2周目・3周目をすることもできるようになっている。 *8

全候補問題の配線図を解いてみた後、 YouTubeの参考動画を見ながら練習を進めていった。

その際、練習材料が高価だったので、 電線の寸法を短くして練習回数を増やそうとした。 機材間の間隔を15cmから5cmに切り詰めたり、 結線部の被覆剥きを推奨された10cmから8cmに切り詰めたりしてみた。 (最初は5cmにしたら結線の作業難度が跳ね上がったので、後に8cmに伸ばした。) 電線を短くしたことで作業は難しくなったが、 本番が易しく感じるだけなので問題ないことにした。

f:id:astatine85:20210929193815j:plainf:id:astatine85:20210929193808j:plain
練習作品

練習の最初はVVFストリッパーの使い方が分からず、 電線を寸法通りに切る・被覆を剥くといった作業に時間が取られた。 また、どの作業を先に行うか判断したり、 どう配線するかを逐一確認したりすることにも時間を取られていた。 だが、次第に慣れてくると、 作業手順や配線のパターン化が進んでいった。 それにより、 複線図や電線の長さといった思考しなければならないことが減り、 無心で手を動かすだけという状態になっていった。

最初は候補問題全13問を一周+αしようと思っていた。 しかし、パターン化しきって練習に飽きてきたこともあり、 一番作業量が多いと思われるNo.7の4路スイッチが30分程度で完成できると分かったところで練習は十分だと判断した。 結局、実際に練習したのは全13問中7問だった。

その間に練習する目的が、邪魔な電線を消し去りたいという、合格とは異なるようになっていった気もするが……。

最後に公表されている欠陥基準を確認した。 動画で何回も説明されていたことの再確認となったが、実際の基準が分かると安心できた。 特に、電線の寸法が50%より長ければ問題ないという保証が得られたことで、 本番で電線を切り間違ってしまったりしても適切なリカバリ方法を考えることができるようになった。

技能試験本番

試験の受験票には、試験開始時間の他に小さく入場時刻 *9 が書かれている。 入場時刻から試験開始時間の間には、 試験の説明・問題用紙と支給材料の配布・支給材料の確認が入っている。 そのため、試験開始時間の直前に着いても遅刻扱いとなって受験できないので注意しないといけない。

そこまで深刻に考えずに入場時刻丁度に会場に着いたら、 同じ時間帯に集まった受験者が長い列を形成している状態だった。 結局、時間ギリギリでの会場入りとなってしまったので危ういところだった。

試験会場に入ると、注意書き・問題用紙・支給材料が配布された。 この後30分かけて注意事項の説明や支給材料の確認をした後、技能試験が始まる。

この問題用紙の表紙には、今回使用する材料の一覧が載っていた。 一覧には今回の試験で使う材料だけが列挙されているので、 4路スイッチがあれば No.7・金属管があれば No.11といったように、 問題用紙を開く前にどの候補問題か特定できる。 そのため、試験開始前からどういう手順で組み上げるかのシミュレーションや注意点の再確認をすることができた。

支給材料の確認では、支給材料の段ボール箱を開けて内容物が一覧通りか確認した。 意図的に異なる機材が入っており確認時に交換しないと不合格になるといった罠を警戒していたが、杞憂で済んだ。

試験時間になったら、 布尺や廃材入れのビニール袋をマスキングテープで机に固定するという小技を実践し、 問題用紙の施工条件・注意事項を確認した。 その後は無心に手を動かすだけとなった。

練習とは違って電線の長さに余裕があるので、 30分くらいで完成させることができた。 その後は時間まで欠陥がないか結線部の確認・再確認・再々確認……をしていた。

試験会場で気付いたテクニックとして、プレート外しキーの持ち込みがあった。 プレート外しキーがあれば、コンセントやスイッチに電線を差し間違えても指し直すことができる。 一応、マイナスドライバーを代わりに使うこともできるようだが、 マイナスドライバーで外そうとしたらスイッチを壊してしまい不合格になったという報告もあったので、正規品であった方が良さそうだ。 練習材料セットにもプレート外しキーは入っていたので、それを持ち込めば良かった。

申請

技能試験の合格通知が来たら、 技能試験で配られた案内通りに申請する。

申請に必要なもの

  • 申請書
  • 格通
  • 住民票 (個人番号の記載無し・本籍の記載は不要)
  • 3cm x 4cmの写真 2枚
  • 返信用封筒 (長3定形封筒)
  • 申請費用 (5300円)

申請費用の支払い方は都道府県によって異なるようだが、 私の場合は、申請窓口に直接持ち込むか、現金書留で送るかの2択だった。

コロナ禍の最中だったので現金書留を推奨されていたこともあるし、 現金書留という手段があることを初めて知ったこともあって、 今回は現金書留を使ってみることにした。

申請に必要なものを茶封筒に全て入れて郵便局に持っていったら、 現金書留用の封筒が存在することを教えてもらった。 専用封筒だと二重になっているので安全と紹介されたが、 茶封筒のまま送ることにした。 (2021/05/19に 現金書留用封筒の仕様変更 があったようで、二重封筒から紙質の強度確保に変わっていた。)

費用

電工二種の資格取得にかかった費用をまとめると次のようになる。

品目 価格
受験料: 受験手数料 9,300
受験料: 事務手数料 293
ユーキャンの第二種電気工事士 <筆記試験> 合格テキスト&問題集 1,980
HOZAN DK-28 電気工事士技能試験工具セット 基本工具+P958 VVFストリッパー 11,377
HOZAN P-925 合格ゲージ 398
HOZAN P-926 合格クリップ 517
電材王 第二種電気工事士技能試験 練習材料 セットA (全13問 電線1回分+配線器具) 2021年度版 13,850
申請費用 5,300
第一種定形 94
現金書留 435
合計 43,146

その結果、独学でも総額で4万3千円近くかかったことになる。 受験料・申請費用の約1万5千円は必須だが、 工具・練習材料費の約2万6千円は抑えられたかもしれない。

工具や練習材料は借りたり、フリーマーケットでの出品を探すという手が使えた。 特に、練習材料は受験後は不要になるので、探せば割と簡単に見つかったはずだ。

また、候補問題全13問を一通り練習する必要がないと判断すれば、 練習材料のセットではなく個々で買うという方法もある。

練習材料に含まれているスイッチには、通常・3路・4路・位置表示灯内蔵の種類があるが、電線を差す部分には変わりが無い。 そのため、技能試験の練習をするためだけならば全種類のスイッチを揃える必要はない。 同様に、コンセントやシーリングも全種類を揃えなくても問題ないはずだ。

電線もVVF・IV・EM-EEFなどがセットに含まれているが、大半がVVFケーブルだ。 VVFケーブルだけなら比較的安く買えるので、 VVFケーブルを買って練習するということもできた。 VVF以外のケーブルが試験に出た場合はぶっつけ本番となってしまうが、 動画で予習できたり、試験中に電線の端でテストできたりするので、 分の悪い賭けでは無いだろう。

まとめ

こうして、長年取得したいと思っていた電工二種の資格を取ることが出来た。

取らずにいた理由の大部分は費用だったので、 最大の障壁は申請時に受験料を払うことだった。 しかし、費用のうち大部分を占める技能試験対策費は、 工夫次第で削減できる余地が多そうだ。 そのことが分かっていれば、もっと早く取得していたのかもしれない。

今のところ電工二種を取っただけで、 コンセントの増設などの電気工事はしていない。 だが、どのように改造できるかといったことを考えて楽しむことが許されるようにはなった。

*1:独習KMC Vol.6: 電気工事士の居る部室

*2:筆記試験が免除されても受験料の割引はされないため。

*3:令和3年度第二種電気工事士試験(上期)の申込みについて

*4:上期・下期の2回、それぞれに午前・午後があるので、1年間で4種類の問題が作られる

*5:直径1.6mmの単線の許容電流は27A、直径2.0mmの単線は35A、etc...

*6:VFFケーブル = 600Vビニル絶縁ビニルシースケーブル平形(Vinyl insulated/Vinyl sheathed/Flat-type)

*7:令和3年度上期の筆記試験合格者は47,841人

*8:機材+電線2周分, 機材+電線3周分といったセットも販売している

*9:試験開始時間の40分前